栃木・宇都宮の相続手続何でも相談室室長の石川です。
相続に関するやや細かい知識を書いていきます。
「遺産の一部分割」に関してです。
遺産の一部だけを先に分割することはできるか?
1.一部分割の場面
相続が発生した後は、遺産の調査を完了し、
全部の遺産を一度に分割するのが合理的といえます。
しかし遺産が多岐にわたる場合や相続人が多数いる場合等、
全部の遺産について一度に分割しようとすれば、
非常に長期の協議が予想され、
それならば一部の財産だけを先に分割したいと
考える場合もあるでしょう。
また、相続税の納税のために
とりあえず一部の預貯金についての
法定相続分で分割する場合もあるでしょう。
一方では現実には遺産分割協議の際には判明しなかった遺産が
後になって発見されることもあります。
不動産の場合、固定資産税等の税負担が生じますから、
その納付書が送られることによって
被相続人がどこにどれくらいの不動産を所有しているのか
明らかになる場合が多いですが、
被相続人が取引銀行以外に多数の銀行や支店にも
預金口座を開設していた場合には遺産が後に判明することがあります。
このような場合には先になされた遺産分割協議は結果的に
一部分割となることがあります。
2.一部分割の根拠
相続発生後は、遺産は相続人の共有状態になりますから、
相続人全員が合意するならば、分割一回にするのか、
複数回にするのか、自由に決定できるはずです。
また法律上も
「家庭裁判所は、特別な理由があるときには
遺産の一部分割の禁止ができる」と規定されており
(民法907条3項)、
この規定からも、特別な理由がない限りは
一部の分割ができることが導かれます。
遺産分割分割の審判においては、
後の残部分割に不都合を生じさせない限り、
一部分割が認められています。
3.残部分割との関係
一部分割の問題は、一部分割の可否そのものよりも、
後の残部部分の遺産分割を行うときに
先の一部分割の結果をどのように反映するかという形で顕在化します。
被相続人x、相続人A,B,Cの3名で、
預貯金、株式、不動産を遺産として残した事例を考えます。
商売を行っていたAはxの相続発生後、
手形の決済資金のためにどうしてもお金が必要になったため、
B,Cに対して預貯金はすべてAが相続する内容の一部遺産分割協議を
先行するように懇願しました。
B,Cがこれに応ずれば、預貯金の名義をAに変更し、
Aはお金を払い戻して手形の決済資金として使用します。
しかし、問題はその後他の遺産である株式、不動産に関する
遺産分割を行う時です。
A,B,Cの関係が悪化した場合や
Aの資金繰りが再び悪化した場合が問題です。
Aは預貯金の全部を取得したにもかかわらず、
株式、不動産についても3分の1の取り分を主張してくるかも知れません。
よって、遺産の一部について遺産分割協議を行う場合には、
残部の遺産の遺産分割協議を意識した遺産分割協議を行う必要があります。
具体的には、遺産分割協議書の中に、
上記の例を前提にすると、
以下の内容を盛り込んでおくべきでしょう。
①預貯金についてのみ先行して一部分割を行い、
Aが単独でそれを相続する理由
②残部の株式と不動産について遺産分割を行う際には、
預貯金、株式、不動産全体の総額を基準として、
一部分割、残部分割を総合してA,B,Cが各3分の1の割合で
遺産を相続すること
③未発見の遺産が発見された場合には
A,B,Cが各3分の1の割合で相続すること
以上、栃木・宇都宮の相続手続何でも相談室でした。